花房観音著 京に鬼の棲む里ありて
花房観音は、2010年、「花祀り」で第1回団鬼六賞(無双舎主催)の大賞を受賞した作家であり、その凡庸ではない女の情念の深さを唯一「官能的」に描くことができる作家だと思います。官能といってもエロスだけでなくタナトスも相まみえるようです。
花房観音の書く女は、哀れで愛らしく醜く読者が目を覆いたくなるような女たちは少ないです。まるで作者の筆致は微笑む観音像のように静かに、性に悶える女たちを見守っている。
この作者の、女性にそそぐ目は優しくも厳しい。
あらすじ
新刊「京に鬼の棲む里ありて」では短編集を寄せ集めたものです。
最初の話は「鬼の里」であり収録されているのはこれらの話です。
- 鬼の里
- ざこねの夜
- 朧の清水
- 愚禿
- 糺の森
- 母たちの大奥
花房観音作品の魅力
彼女の作品は、官能的な女性を魅力的に描きつつも官能を味わえない女性は魅力的ではないのか?それとも?そういった問いを投げかけてきているような気がします。
女としての賞味期限とは何なのだ?
私は常々、性愛への欲望が終われば女は終わるのであろうかと疑問に思っています。
賞味期限を決めているのは男である。
短編集の中でも一番気に入ったのが「母たちの大奥」でした。
今年刊行された作品であることも含め、中身に関する感想は控えめにさせていただきます。
女性こそ読んでほしい作家
常々、女性は子供を産めば一人前という声に苦しめられたことがありました。
女性は子供を産めるから、偉いのだーという教育のもとに生まれた私は、神や女神、男、すべてを憎むようになりました。そんな私を見かねた世界史の教師が「官能小説」を読んでみろと勧めてくれたのがこの先生の本です。
私は、『花祀り』から入り、『楽園』を読んで衝撃と眩暈がしました。
心の傷をえぐるし、母親に苦しむ自分に『楽園』は残酷すぎる本でもありました。
ただ、この時代の女性は変化の時を生き苦しみながら「子供を産んでほしい」という社会的圧力にさらされています。「母たちの大奥」は、その圧力にさらされつつも「子を産んだ」と上に立つ女、下から見上げる女の構図が見えるようです。
しかし、本当はそんなものではないのです。
最期までこの短編を読んで、あたたかな気持ちになり慰められた気がしました。
生きて、この地獄で生きていこうと思いました。
幸せになるには地獄に堕ちる覚悟が必要です。愛すべき作者にお礼を込めて。
最期に
女とはなにか、女性とは何か、性とは何か。そこに正解はあるのかないのか。
もだえる三十代の女性たちにこそ手に取ってほしいおすすめの本です。
私たちは自分たちの枷から逃れられぬけれど、人生を楽しむことは上手な生き物ですから。