香華 有吉佐和子著
どんな本?
二人の母と娘書いた作品。母の郁代は淫蕩で快楽主義だが稀な美貌の持ち主の遊女。
そして娘は朋子。母とは違い、美貌はないものの運よく芸妓として生きる。
この二人の憎しみや周りの目線がまじりあうような花柳界の悲しみと母と娘の話。
この本を手に取った理由
単純に父の書斎にあったので。
古い本なのでネタバレも含みつつ感想を。
郁代の最期と、忘れられない本となった「香華」
高校生の時に読みましたが、今も手元にあります。「香華」はちょうど思春期真っ盛りで母との関係に悩んでいた頃に読んだ本です。
大人になっても、どこか母を憎み切れないのはこの本のせいかもしれません。
もう、母が私を憎んでいたとしても私は母を憎んでいない。
郁代は淫蕩で自由で腹が立つほど、無頓着です。子供に対しても。
ほったらかしですし、体も売り「婆傾城」と笑われても平気です。
そして美貌でもって男を次々と変えていきます。人に甘えるのもお手の物。
郁代はまだ少女のままです。
朋子はそんな母を軽蔑交じりの視線で見つめます。
周りのものに手厚く、郁代の息子まで面倒を見ます。
彼女自身は子供を持つことはありませんでしたが、郁代の息子は自分の母のように朋子を慕います。
心に響いた最期
困窮すると朋子のもとにくる郁代ですが、どこか甘えにきているように思えます。
親子が逆転している姿…。
ただ、なぜ郁代がこうなったのかわかる気もするのが苦しいのです。郁代は美貌の持ち主でした。
美しいものがまっとうに生きようとしても、本当に難しい。
試練のように襲い掛かる男性という存在。それを美しい女は避けては生きていけない。
不器用なものほど、避けられず翻弄されていく。
女性が自立も難しい時代に、郁代の美しさはむしろ邪魔だったのかもしれません。
美しければ美しいほど、生きにくさは段違いに上がります。
要らぬ勘違いをされ…それでもまっとうに生きようと思える人はなかなかいないでしょう。美しい母、の苦悩をわかってあげることはできないでしょう。
この郁代が初めて母となったのは、朋子が事故にあったと聞いた瞬間に血相を変えて飛び出したときです。その部分を見て、嗚呼、不器用だけと愛していたのだなと。
娘としてかはわからないけれど、大切な存在だったのだと。
時折、本を思い出して感じること
母と娘は苦悩して分かり合えないものです。
ですが、この本を読み返すたびに女である限り分かり合えない存在なのだとあきらめて、別の人生を生きる者の苦悩などわからぬのだから、幸福であればそれでいいと。
母は幸福であればそれでいい、そう願えるまでには浄化されていったように思います。
昔の母の写真を見た時に、「美しいな」と感じたのと同時に郁代の姿が重なりました。
好きなように生きられない葛藤があったのかもしれません。
※私の母はきちんとしていたし、放蕩な人ではありません(料理のセンスとか盛り付けのセンスとかはおしゃれでした。吝嗇ではありましたが、私は散財家なのでそこは見習いたいです…)
おわりに
この本は母娘関係に悩む人や、女性に手に取ってほしいなと思います。
おすすめはしにくいですし、最後はもやもやする人もいるかもしれません。
決してこの母と娘という問題はすっきりするものではないとおもいつつ最期の朋子の自立を見てほしいなと感じます。