むかし、木山弾正という殿様の家来に宮園兵部という若者がいた。
兵部は将来有望なりっぱなさむらいでした。
その兵部が、ある年のこと、病気になって寝ついてしまい、しばらく養生すことになりました。
だいぶ体の具合がよくなったころ、兵部は滝の方に出かけることにしました。(現在で言う白糸の滝のことです)
滝で休んで、しばらくすると滝の上の方に白いものが立っているのが見えました。よくみるとその白いものは若い美しい女でした。
むすめは、兵部に「寄姫」という名前であること両親とはぐれて天涯孤独であること、滝の上のほらに済ついて機織りをして暮らしていると話しました。
そして兵部に「あなたの家でわたしを使ってくれませんか、どんな仕事でもしますから」
兵部も女手が欲しいと仕事であったので、自分の家を伝え娘に都合のいい時に来るように言って帰りました。
そして、数日後に依姫が現れ、二人の生活がはじまりました。
夫婦ではありませんが、仲睦まじくしあわせな日々が続きました。
ある日、兵部の友人が火の玉を見た、追いかけると兵部の家に入っていき、美しい娘がいたと。
兵部もおもいあたるふしがありました。もしかしたら寄姫は人間ではないのかもしれない、と。
「さては、化け物であったのか。」
兵部は刀を抜いて寄姫に切りつけました。
「兵部様」
悲しそうな声とともに寄姫は消えていきました。やはり化け物であったのかと兵部は、呆然としていました。
しかし、普段の寄姫はまったく兵部に危害を加える節もなくしあわせそうに微笑んでいました。
化け物には思えません。
兵部は夜が明けて、家の外に出ると庭から外に血の跡が続いているのに気づきました。
そして、滝の洞穴の方に向かうと白いものが横たわっています。
寄姫は微笑みながらつめたくなっていました。
兵部は、自らの愚かさに呻き寄姫をねんごろにほうむりました。
その後、兵部を見たものは誰もいません。
洞穴の入り口にもとどりから切り取った兵部の髪の毛が刀とともに置いてあったそうです。
月の綺麗な夜に滝の水音の合間に「兵部様、兵部様」と寄姫の声がすると村人は噂をしました。
人々はその滝を「寄姫の滝」と呼ぶようになりました。
今でも寄姫の滝のそばに住む落としよりは、子供が泣いたりわがままを言うと「いんま、寄がくるぞ、寄が来るぞ」と脅かすそうです。